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熱中症対策と予防のポイント
- 2025.06.5 | 産業医コラム
Contents
熱中症の基礎知識
(症状・重症度・予防の必要性)
熱中症とは、高温多湿な環境で体内の水分・塩分バランスが崩れたり、体温調節機能が破綻することで起こる障害の総称です。症状は軽いめまいや立ちくらみ、筋肉のけいれんや硬直、大量の発汗から(Ⅰ度)、頭痛、吐き気・嘔吐、倦怠感などを経て(Ⅱ度)、重症になると意識障害や痙攣(Ⅲ度)、高体温など命に関わる状態(Ⅳ度)に至ります。実際、職場での熱中症患者は年々増加傾向にあり、2024年には休業4日以上の死傷者が1,257人(統計開始以来最多)発生し、そのうち31人が死亡しています。深刻な労働災害を防ぐためにも、熱中症の予防対策が不可欠です。neccyusho.mhlw.go.jp
屋外作業や工場勤務で熱中症リスクが高い理由
炎天下の屋外作業現場や高温多湿になりやすい工場内では、熱中症のリスクが特に高まります。例えば直射日光下の建設作業や、熱源の多い製造現場では**暑さ指数(WBGT)**が28℃を超える環境になりがちで、長時間作業すると熱中症の危険が著しく増しますweather-jwa.jp。加えて、作業上どうしても通気性の悪い作業着や防護具を着用しなければならない場合、体内に熱がこもりやすくなります。さらに、夏の初期など身体が暑さに慣れていない時期や、休暇明けで急に暑い環境に戻った直後は、体の暑熱順化(暑さへの適応)が不十分なため熱中症を発症しやすいのですnetsuzero.jp。
実際の労災統計でも、屋外作業の多い建設業や暑い工程のある製造業で熱中症事故が突出しています。2024年に職場で発生した熱中症による死傷者1,257人のうち、製造業が235人、建設業が228人と最多を占めており、死亡者数でも建設業(10人)と製造業(5人)が上位でしたneccyusho.mhlw.go.jp。このように屋外作業や工場勤務は高温環境や重労働が重なりやすく、特に注意が必要な職場と言えます。
職場で今すぐ実践できる熱中症予防策
熱中症は適切な対策で予防可能です。屋外作業や工場の現場で産業医が推奨する具体的な予防策を以下に紹介します。
<服装>
通気性・吸湿性の良い作業着を着用し、熱がこもらない服装を心がけましょう。必要に応じて冷却ベスト等のクールグッズを活用し、屋外では直射日光を防ぐため帽子やヘルメットの日よけを利用しますnetsuzero.jp。防護具着用が必要な場合も、可能な範囲で涼しい素材のインナーを使うなど工夫してください。
<水分補給>
喉が渇く前に定期的な水分・塩分補給を徹底します。炎天下や高温環境では大量の汗とともに塩分も失われるため、スポーツドリンクや塩タブレット等でナトリウム補給も行います。飲み物は常に手の届くところに用意し、作業中も上司や同僚同士で声を掛け合ってこまめな水分摂取を促しましょう。
<作業計画>
気温がピークとなる時間帯を避けて作業スケジュールを調整します。日中の最も暑い時間帯に無理に作業を詰め込まず、早朝や夕方に振り分けるなどの配慮が有効です。また、暑さに慣れるまでは徐々に負荷を上げる暑熱順化期間を設け、新人や休暇明けの作業者には軽作業から始めてもらいますweather-jwa.jp。作業はできるだけ単独行動を避け、常に複数人で行ってお互いの体調変化に気付けるようにしましょう。周囲が異変に気付きやすい“バディ制度”は熱中症予防に有効です。
<休憩の工夫>
定期的に休憩を取り、体をクールダウンさせます。目安として少なくとも1時間ごと、暑い日は30分ごとに休憩を入れ、休憩中は日陰や冷房の効いた休憩所で体温を下げましょう。現場に扇風機やミスト扇風機を設置して風を送り、冷却タオルや氷、水浴びなどで積極的に体を冷やす工夫も有効ですnetsuzero.jp。汗で失われた塩分補給のため塩飴や経口補水液を休憩時に摂るのも良いでしょう。
<職場環境整備>
職場の**暑さ指数(WBGT)**を把握し、危険な暑さかどうかを常に確認します。WBGT計(湿球黒球温度計)を用いて作業エリアの指数を測定したり、環境省の「熱中症予防情報サイト」で地域のWBGT予測値をチェックして、基準値を超える場合は作業中止や追加対策を検討します。また、職場環境自体の改善も重要です。屋外では日除けシートやテントを設置して直射日光を遮り、地面や建物からの照り返しを減らします。屋内作業場でも換気を十分行い、スポットクーラーや大型扇風機で空気を循環させましょう。必要に応じて打ち水で気化熱を利用して涼を取る方法もあります(ただし、閉鎖空間では湿度が上がりすぎないよう注意netsuzero.jp)。
法令や公的ガイドラインに基づく注意点
職場での熱中症対策は労働安全衛生法などの法令上の義務でもあります。労働安全衛生法第22条では事業者に労働者の安全と健康を確保する義務が明記されており、高温多湿下での作業においては必要な措置を講じなければなりません。また、労働安全衛生規則第592条により、高温作業を行う際は水分の補給や換気、適切な休憩の確保などを実施することが求められています。これらの規定により、猛暑下で何の対策も取らずに労働者を働かせれば法令違反に問われる可能性もあります。
近年は法令・ガイドラインがさらに強化され、熱中症予防は「努力目標」ではなく実効性ある対策の徹底が求められるようになりました。厚生労働省は毎年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を展開し、事業者へ熱中症対策の周知徹底を図っています。特に2025年6月の労働安全衛生規則改正では、WBGT値28℃以上または気温31℃以上の環境で長時間作業を行う場合、事業場ごとに
- 早期発見のための報告体制の整備
- 重症化を防ぐ措置・手順(作業中断、身体冷却、緊急連絡先の整備など)を定めること
- 関係する作業者へ周知すること
が義務化されました。万一労働者に熱中症の疑いが生じたら、躊躇なく報告・応急処置・医療機関への搬送ができるよう、企業は体制を整備する必要があります。厚生労働省の「職場における熱中症予防対策指針」では、暑さ指数(WBGT)の活用が重視されており、作業の強度に応じたWBGT基準値を超えた場合は上記のような予防策を実施するよう求められていますweather-jwa.jp。これらは対策を怠り労働災害が発生すれば法令上の安全配慮義務違反と見なされるリスクが高まります。現場で働く皆さんも、会社が適切な熱中症対策を講じているか意識し、自分の身を守る行動をとることが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 水分補給はどれくらい、何を飲めばいいですか?
A1.
熱中症予防の基本は、のどが渇く前にこまめな水分補給を行うことです。特に暑い環境では、20〜30分ごとにコップ1〜2杯程度の水分を補給するのが望ましいとされています。飲み物は水や麦茶でも構いませんが、汗を大量にかく場合は体内から水分だけでなく塩分(ナトリウムなど)も失われます。その状態で水分だけ補給すると血液中の塩分濃度が下がり、手足のけいれん(いわゆる熱けいれん)を起こしやすくなるため注意が必要ですnetsuzero.jp。したがって、塩分も同時に補給できるスポーツドリンクや経口補水液が適しています。厚生労働省の報告でも、少なくとも0.1〜0.2%の食塩水(1リットルの水に食塩1〜2g)やナトリウム40〜80mg/100mL程度含む飲料で水分補給することが推奨されています。アルコールやカフェインの多い飲料は利尿作用があるため、水分補給には適さないので避けましょう。
Q2.どんな人が熱中症になりやすいですか?
A2.
高温多湿な環境下で特に注意が必要な人として、以下のようなケースが挙げられますnetsuzero.jpwbgt.env.go.jp:
⚫︎高齢者や若年者:
高齢者は体内の水分量が少なく暑さを感じにくい傾向があり、若年者(高校生年代以下)も体温調節機能が未熟なため注意が必要です。
⚫︎持病がある人:
肥満、糖尿病、高血圧、心臓病、腎疾患などを抱えている方は熱中症のリスクが高まります。服薬中の薬によっては脱水を助長するものもあるので注意が必要です。
⚫︎体調不良の人:
睡眠不足や二日酔い(前日の深酒)、下痢による脱水、風邪などで発熱している場合も熱中症になりやすい状態です。
⚫︎暑さに慣れていない人:
新入社員や長期休暇明けで暑い現場に復帰したばかりの人、急に暑くなった日の作業などは、身体が暑さに順応しておらず熱中症の危険が高いです。過去に熱中症になったことがある人も再発しやすいため注意しましょう。
⚫︎我慢しがちな人:
喉の渇きや体調の異変を感じても「大丈夫」と無理をしてしまう人も要注意です。遠慮せず早めに休憩や水分補給を取ることが大切です。
以上に該当する方は、周囲も含めて普段以上にこまめな体調確認と予防対策を心がけましょう。
Q3.熱中症予防のためには、どのくらいの頻度で休憩すればよいですか?
A3.
気温や作業強度によっては、さらに頻繁な休息が必要です。たとえば環境省の指針では、暑さ指数(WBGT)※が基準を上回るような高温環境下では1時間あたり15分以上の休憩を確保するよう求められています。さらに気温が極めて高い場合には30分休憩(作業30分・休憩30分のサイクル)、危険な暑さでは作業中止も検討すべきとされています。
休憩の際は日陰やクーラーの効いた涼しい場所で体を冷やし、水分・塩分を補給しましょう。作業中も無理せず適宜小休止を入れるなど、「早め早めの休憩」を心がけてください。
※WBGT(湿球黒球温度): 気温だけでなく湿度や輻射熱を考慮した暑さ指数で、労働現場で熱中症予防の指標として用いられます。
Q4.熱中症対策に適した服装はどんなものですか?
A4.
通気性が良く、体内の熱を発散しやすい服装を選びましょう。具体的には、綿や麻など通気性の高い素材の作業着が適しています。インナー(肌着)は吸汗性・速乾性に優れた素材を選ぶと汗がすぐ乾き快適です。直射日光の下で作業する場合は、つばの広い帽子やヘルメット用の日よけを使用し、できるだけ皮膚の露出を避ける(通気性の良い長袖の着用)ことで日射を防ぎましょう。さらに近年では、作業服にファンが付いた空調服や、保冷剤入りのベストなども有効です。厚生労働省の資料でも、可能な限り空調服などの活用が望ましいとされていますneccyusho.mhlw.go.jp。これらを併用し、服装面からも熱中症予防に努めてください。
Q5.作業中に熱中症が疑われる人がいたら、どう対処すればいいですか?
A5.
まず周囲の人がすぐに声をかけ、反応を確認してください。意識がはっきりしない、返事がおかしい場合は重症の恐れがあるため、ただちに119番通報し救急車を呼びます。意識がある場合でも油断は禁物です。涼しい場所へ移動させ、衣服を緩めて体から熱を逃がします。可能であれば扇風機やうちわで風を当てたり、濡れタオルで肌を拭いたりして体を冷やしましょう。特に首筋、脇の下、太ももの付け根など太い血管が通る部位を冷やすと効率的です。本人が自力で水分補給できる状態なら、水分と塩分を同時に補給できるスポーツドリンク等を飲ませます。蓋をした状態で渡し、開けれないやうまく飲めない(こぼす、むせる)状態や症状が改善しない場合や重い症状が出ている場合は、ためらわず医療機関を受診させましょう。
Q6.熱中症予防のために普段の体調管理で気をつけることはありますか?
A6.
日頃の健康管理が熱中症予防には土台として大切です。具体的には以下の点に注意してください:
⚫︎十分な睡眠:睡眠不足は体調不良や脱水を招き、熱中症のリスクを高めます。夏場は特に寝苦しい夜もありますが、エアコンや扇風機を適度に使い、睡眠環境を整えましょう。
⚫︎バランスの良い食事と朝食の摂取:暑さに負けない体づくりには栄養が不可欠です。朝ごはんを抜くと体力や集中力が落ち、熱中症にかかりやすくなります。塩分やミネラルも普段の食事でしっかり補給しましょう。
⚫︎適度な運動で体力維持:日頃から汗をかく習慣をつけておくと、汗による体温調節機能が発達し熱中症に強い身体になります。ただし無理は禁物で、体調に合わせて行いましょう。
⚫︎前日の飲酒を控える:深酒や大量の飲酒は翌日の脱水状態を招きます。特に猛暑日の前夜は飲み過ぎないよう注意しましょう。
⚫︎体調不良時は無理しない:発熱(風邪など)や下痢で脱水気味のとき、また持病が悪化しているときは普段より熱中症リスクが高まります。そういう日は無理をせず、必要に応じて産業医や上司に相談してください。
常に自分の体調の変化に敏感になり、少しでもおかしいと感じたら早めに対策・休養を取ることが肝心です。会社としても労働者への健康教育を行い、熱中症の兆候や予防法について周知徹底することが求められています。皆さん一人ひとりの体調管理の積み重ねが、職場全体の熱中症ゼロにつながります。日頃から万全の準備をして夏の作業に臨みましょう。
厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」
